尼崎事故で思うこと(5:安全と効率とスピード)

神戸新聞でこんな記事を見つけました。

相次ぐ安全を問う声 「私も一言」 (2005/05/17)

デパート誘致優先 事故の危険 大阪駅改良工事に警鐘 桃山学院大学経済学部教授 野尻 亘(経済地理学・交通論)

JR西日本は新型ATSの設置などの安全対策よりも、デパートを誘致するための大阪駅改良工事を優先させてきた。現行の十一番までのホームのうち二本を廃止し、さらにホームの間隔を縮めてまで、跡地にデパートを誘致する。このような事例は同様にデパートを誘致した新宿・名古屋・京都駅でもなかった。今回の事故の背景に過密ダイヤが指摘されているが、工事の完了後、大阪駅のラッシュ時の混雑と列車運行ダイヤの輻輳(ふくそう)はいっそう深刻で危険になる。
(中略)
特に工事が進んだ新三番・四番ホームを見て驚いた。乗降客の多い御堂筋側の階段がすべてエスカレーターに取り替えられている。しかもその角度は急で昇降の速度も速く、長い。階段やスロープを使わず、狭いエスカレーターでより大量の乗客を短時間にさばく設計である。急病人や泥酔者が倒れることで、大規模な雑踏事故が発生する危険性が高い。いったい明石歩道橋事故の教訓は生かされているのだろうか。

そもそも大阪駅の用地とは、国鉄時代からの国民の血税と乗客による運賃の負担によって蓄積されてきた公共財産である。それが安全性や危険性に関する情報を一般乗客・利用者・株主に開示しないまま、私企業の利益だけの観点から転用されてはならない。
(後略)

(引用元:神戸新聞

大阪駅の改良工事に言及するあたり、なかなかこの方は良く見ているなあ、という気がしました。というか利用者なんでしょうね、この方。
もっとも、ホームの間隔が狭くなったのは客車列車時代の機回し線を撤去したため(もともと使用していない線を撤去しただけで、ホームの幅が狭くなったような印象を覚えるがそういうわけではない)、エスカレーターの角度は特に急なわけじゃない(踊り場がないのでそう見えるだけ?)、スピードは遅いものも用意されている(速いタイプのものは近鉄難波駅などでも導入済)、と事実誤認もいろいろありますが。
それでも、現場をチラッと見ただけの評論家や、そもそも現場すら見ずにTVや新聞の報道・資料映像だけで語ろうとする御仁どもとはわけが違います。こういう部分を洗い出していくことが、真の安全追求になるのではないでしょうか。
 
人の発言ばっかり引用していてもアレですので、私からもネタを一つ。

JR東海道本線新大阪駅、ここは4面8線の駅でして、基本的には複々線の本線それぞれから副本線が1本分かれる構造になってます(細かい渡り線はありますが)。

上の図を見ていただければわかるのですが(ヘタクソな絵でごめんなさい)、東淀川以北の駅はすべて東淀川と同じホーム構造になっています。さらに言うと大阪駅も、東海道本線が普段使用する5〜8番ホームについては東淀川駅と同じホーム構造です。要するに、2面の島式ホームを上下線の4本線で使用するというパターン。

要は、新大阪駅だけがホーム構造が他と違うわけです。
で、何が言いたいかというと、「新大阪駅だけは開くドアが反対になる」ということ。

大阪方面行きの各駅停車で話をすると、東淀川駅に停車した電車(青色)は左側のドアが開きます。その手前の吹田や岸辺、その先の大阪や塚本などもホーム構造は同じですので、電車は左側のドアが開きます。ところが新大阪駅では、そのまま本線に進入すると右側のドアが開くことになります。

でも、ドアが開く位置が逆になっても客は特に困らないわけです。反対側のドアが数十m離れているわけでもありませんし、きちんと案内放送をしてくれればすむこと。実際問題、国鉄時代から最近まで、ずーっと新大阪駅では右側の扉が開いていました。
ところが数年前、JRは突如新大阪駅でのドア扱いを変更しました。これまで本線に入れていた電車を分岐側の副本線に入れ(赤色)、他の駅と同様に左側のドアが開くようにしたのです。

この理由についてJRは「ドアの開く方向を統一し、お客様により便利にご利用いただくため」と説明していました。しかし本当のところは、車掌の勘違い(もしくは注意不足)によるドア誤扱いを防ぐためではないか、という話を良く聞きます。つまり、ボーっとしてた車掌が、前後の駅と同様に左側のドアを開けてしまうのを防ぐため、いっそのこと新大阪も左側にしてしまえ!ということです。
確かにこの時期、車掌が間違えてホームの反対側のドアを開いてしまうという事故が全国で数件ありました(首都圏が多かったようですが)ので、その予防というのが本当のところでしょう。

んで、別にコレだけなら問題ないのですよ。危険を一つ防ぐことが出来るわけですから。
ところが問題なのは、この変更のために列車が副本線に入るようになったということ。

もう一度、上の図をよく見てください。今まで(右側ドア開け)はポイントをそのまままっすぐ入って(出て)いけばよかったのですが、変更後(左側ドア明け)はポイントを分岐側に進まなければいけなくなりました。これはどういうことかというと、「ポイント通過時に揺れる」ということです。しかもこのポイントはかなり急角度であり、しかも大阪側のポイントはカーブの途中に存在するため、かなり複雑に、しかも大きく揺れるのです。

実際乗ってみるとわかるのですが、ポイントを通過するときに大きく体が外側に振られます。私は吊り革につかまらなくてもたいていバランスをとれるのですが、ここだけは吊り革につかまるほどです。揺れでコケた人を見たことも一度や二度ではありません。

ちなみにこの取り扱い、朝ラッシュ時には行われません。つまり朝ラッシュのときは従来どおり右側ドア開けになるわけです。混雑しているときに、突然(しかも一駅だけ)反対のドアが開くというのは、乗っている客にしてみればかなり効率悪いわけで、お客様により便利にご利用いただけていないんじゃないの?と思ったら、JRとしてはラッシュ時は少しでも効率よく列車を捌きたいわけで、本線側に停車させればポイント手前で減速する必要がないからスピードアップにつながると。いやーまいった。すばらしい効率化。手前どもの説明矛盾も吹き飛ばしてしまうほどの効率化。
 
とまあ、えらく長い話になりましたが、要は「JR西日本では何が最優先されるのかな?」ということで。