内示

情報システム部に異動になったのは、4年前の初夏。
YAKUMOにとって、決して満足できる人事異動ではなかった。
大学の建築学科を卒業して建設会社に就職したものの、建築部ではなく営業部を振り出しに経営企画部門・施工管理部門と渡り歩き、「俺は建築がやりたくて建設会社に入ったんだ!」と叫べども声は届かず、挙げ句の果てに「情報システム部だけは嫌だ、情報システム部にいくくらいなら辞めてやる!」と公言していたYAKUMOを、あろうことか情報システム部に異動させたのは、YAKUMOが社内で尊敬していた人だった。
異動になるたびに「今はその部署で力を出してほしい」とお願いされ、「会社はそこの部署でおまえを必要としている」と諭され。
仕事をしてみれば特段不満があるわけではなく、むしろ自分の力を発揮できていると感じるときすらあり、でもやっぱり心の底でもやもやしていた毎日が、いつのまにか7年続いた。
心の底のもやもやは、いつしか焦りを伴ってどんどん大きくなり、30歳を目前にして、実は今年中に転職しようと心の中で考えていた、その矢先だった。
 
会社の大幅な組織変更に伴って、YAKUMOに人事異動の話が降ってきた。
 
正直めんくらった。
決して望んでいなかった今の仕事。でも自分の力を発揮できている仕事。キーマンであるという自負。
夢だった仕事。30歳にしてゼロからのスタートになる不安。プライドとの葛藤。ぬるま湯の仕事との決別。
 
久しぶりに悩んだ。
YAKUMOにしては珍しく、胃が痛くなるまで悩んだ。
 
やってみよう、と思った。
 
おそらくこれが最初で最後のチャンスだと思った。ここで攻めなければ一生後悔すると思った。
どうなるかなんてわからない。うまくいくかなんてわからない。
だから、やってみようと思った。
 
一度はあきらめかけた夢。
偶然降ってきた、一本の蜘蛛の糸
とにかく上ってやる。
必死でしがみついてやる。
 
人生、なんとかなるさ。